おつかれさまです。

インタビュー(野中柊さん)

2018年1月1日

● インタビュー ● 「あなたのそばで」  野中柊さん

掲載:2005年
20160927close/BOOKSERVISEより転記(テキストのみ)

野中柊さん

プロフィール
作家。1964年生まれ。立教大学卒業後、渡米。NY州で三年半暮らす。1991年「ヨモギ・アイス」で、海燕新人文学賞を受賞し、デビュー。「アンダーソン家のヨメ」「チョコレット・オーガズム」で芥川賞候補。2003年には「ジャンピング・ベイビー」で三島由紀夫賞候補となった。

野中柊さん、著書。

大好きなひとと、ずっと一緒にいたい…。恋愛のせつなく輝かしい瞬間を切り取った、とってもスイートで、ちょっとビターな6つのストーリー『あなたのそばで』
『あなたのそばで』は、別冊文藝春秋に連載していた作品です。
6月(2004年7月号)からスタートして、ひと月おきに1年間連載しました。ジューン・ブライドから始まって、8月に花火、10月は枯葉の季節、12月にクリスマス、2月はバレンタイン、最後に桜の咲くころと、雑誌の発売に合わせて物語の季節も巡っていきます。
6編の収録作品『オニオングラタンスープ』『光』『イノセンス』『片恋』『運命のひと』『さくら咲く』の、それぞれひとつひとつが短篇小説として読めて、さらに短篇連作という形を取り、本になったときは長編としても楽しめるように、お届けしたいと思っていました。

いままでも、自分の作品の中に恋愛のエピソードを描いたことはありましたが、今回、初めて、真っ向から、恋愛小説というものに挑戦してみたように思います。
恋愛のネガティブな側面よりも、幸せで楽しい側面を、よりクローズアップして書きました。男女のあいだの、胸ときめく輝かしい瞬間を、シャッターチャンスを狙って写真を撮るときのように、鮮やかに切り取ってみたかったんです。
恋をして、お互いにドキドキして盛り上がっているときって、とっても短い。ずっとそうありたいと願っても、なかなか、そうはいかないですよね。
「この桜をずっと見ていたい」と思っても、時が過ぎれば散ってしまう、とはいえ、桜のあとには、また新たな美しい風景が生まれる……そんなふうに、季節の移り変わりと共に、恋愛関係における移ろいゆく想いを描いてみました。この作品を書き終えて、すごく充実した気持ちでいます。

それぞれのストーリーに、いろんなカップルが登場して、恋愛のキラキラした時間の中で、さまざまな関係性が育って行きます。そして各話の登場人物同士が、すれ違ったり会話を交わしたりしながらリンクして、物語が進行していきます。
例えば兄嫁に魅かれている『片恋』の主人公、勇輔が誕生日に訪れるバーが『イノセンス』のヒロイン、瞳子のお店だったり。
ラストの『さくら咲く』では、最初の『オニオングラタンスープ』で主人公だった高校生妻、菜名が再びちらりと登場して、とっても幸福なエピソードを披露したり。
『光』では、菜名の担任教師の雪絵先生と生徒会長の松本くんとの秘密の恋を描いていますが、松本くんは若さゆえの純粋さで、大学に合格して就職して、いつか雪絵先生と結婚したい…と考えているけど、先生の方は大人だから「今は楽しいけど、将来はどうだろうな?」とかって思ってたりする。(笑)
『運命のひと』の夫婦は、結婚して9年経ち、お互いによそに恋人を持っています。いわば、倦怠期にある夫婦で、いつ別れてもおかしくないような危うさがありますね。でも、ふたりはもう子どもじゃないし、今の生活における平穏さをたいせつにもしているから、そう簡単に別れようとはしない。長く続いたカップルというものは、常にそういった心の揺れを持っているようにも思うのです。

『あなたのそばで』のカップルたちもそれぞれ屈託とか、ネガティブなものを抱えていると思うんですけど、「人生は大変だ」「男女のあいだは難しい」というばかりではなく、「幸せになるんだ」という気持ちがほわんと桜色に漂っている作品です。

たとえドロドロした泥沼のような人間関係を描いたとしても、どんなに悲しいラストであっても、登場人物たちが明日を生きるための勇気だけは失わず、読者の方々にも希望を感じていただけるような小説を書いていきたいと思っています。本を手にとってくださった方々に、ほんの束の間でも、心地よい幸せな気持ちになっていただけたら、ほんとうに嬉しいです。

今後しばらく、さまざまなシチュエーションの恋愛小説を書いてみたい気分です。スイートな味わいの作品だけでなく、ビターな部分を深化させてみたりとか…。 もちろん、また長編小説にもチャレンジしたいですね。(談)

がんばりましょう。